机上清浄(自由律俳句)

雲は皆ながれ青空南無阿弥陀仏

 

松風吹いて明け暮れは床を磨く

 

ひさしぶりに拭く家の窓雑巾黒くなった

 

分け入られても本音は言わず青い山

 

しとどに濡れた靴で玄関に立ち尽くす

 

乞い歩くこともないくにを遠ざかる

 

鴉去ってしまいみんなひとりぼっち

 

息巻いて山国の雪を見ておる

 

歩きつめる書きつめる

 

踏みしめる一本道をふたり

 

この人生、果てもない旅のひとひゆっくり

 

くらくらもしたが辿りつく

 

月も観ず暮らす日々のつづく

 

飛ぶ蚊もなく仕事もなく暮らしていた

 

座り込んで何を求めるでもなく

 

原付に米載せて帰ってきた

 

とんぼとんぼで眠たくある空に寝る

 

歩きつづける地蔵に礼をして歩く

 

まっすぐ歩いて帰って落ち着く

 

だまって今日も床を拭く

 

酔うこともなく花の散る

 

しぐるる中に立つ生きている

 

障子もない家で妻を撫でて暮らす

 

川に私を映しておる

 

雪を喜べる土地に住んでおる

 

しぐるるあの山へしぐれつつ入る

 

物を少なにして暮れきった

 

木の芽草の芽父について歩む

 

まだ生きていることの不思議に体を掻く

 

わかれて又会った夏の日

 

あの山も疎遠にして暮らしてきた

 

こおろぎが鳴くばかり句を書き落とすばかり

 

鳥も見なくなった梅雨前であった

 

百舌鳥啼いて生かされていることを知る

 

どうしようもない、ひとり眠って朝を待つ

 

暗渠のとなりをだらだら歩む

 

実家に葡萄あり、ぶら下がっている

 

すすきをおりとりてゆっくり帰る

 

分け入ることもない人間のあれこれ

 

いつかすべってころんで今病気

 

窓を開ければ山茶花の庭

 

大きな葉を拾う、手離す

 

今日も宜しい、太陽一つ

 

いつかの土地も売られて土がない

 

つかれた脚をひろげて眠る

 

水を飲んで元気になって坐りなおす

 

みんな何かを抱え何かを探す道へ

 

立派な名前も濁らせてしまうわたし

 

旅することもなし、富士を眺めておる

 

良い湯の中で考えることなく

 

曇り日のつづく、明日は荒れるらしい

 

すっかり白髪となって笑ってみている

 

夏となった、眠っている妻を起こす

 

水の良い土地に生まれてありがたい

 

年とればいつかの家を夢に観る

 

薊咲いている岩かげに座る

 

これで宜しい、私は私を肯定する

 

また頭を使って智慧となるまで

 

しみじみ食べる妻と玉子かけご飯を

 

うたがいの雲晴れて見上げること

 

墓ばかりの土地を捨ててきた

 

酔うこともなく星を眺めている

 

また会えて入院の日々語ることなく

 

雨の日に学ぶ本も少なくなった

 

己の影を見つめつつ歩く

 

逢いたいかぎりの手紙を書いて置いておく

 

神社で失礼したことも昔

 

入り込んで家となる、眺める山に雲

 

自分を呪うことをやめて安らか静か

 

ボロ着て歩く今日は葉巻を買ってきた

 

霜夜体を並べて眠る

 

雪といえば富士という土地に住んでいる

 

もう旅立つこともないとして人生

 

霰がふって風が吹く

 

爪がこころを表していたよ

 

眺めている海といえば母をおもう

 

三十七となり落ち着き聖典を読む

 

歯のあるしあわせを噛みしめる

 

坐っておれば雲が急ぐ

 

友人は遠くして便りは出さぬ

 

良い湯一人っきりの夏である

 

薔薇がまた咲いている不思議

 

葉巻吹かしてしあわせでした

 

しずかな道を急ぐこともなく

 

蕨いただいて丁寧塩をふる

 

しずかな家でせわしない暮らし

 

この家におちつきあとは仕事だ

 

丁寧に食べて箸を置く

 

しぐるる道をついに歩きはじめた

 

秋風吹くこのまま行こう妻よ

 

いつかの蒲公英に励まされていた